昭和天皇第六部 聖断(福田和也著/文春文庫2月10日発行)を読み終えた。今回は、太平洋戦争・開戦から終戦までのドキュメントである。今回も、読後メモとして教材となるエピソードを残しておきたいと思う。
大宅壮一は、開戦直後インドネシアに陸軍宣伝班として二年間ジャワで活躍した。とはいえ、大宅はジャワ人に「大きな家を探してこい」という命令を下している。すると、小さな小屋に案内された。中には大きな馬が2頭いた。大宅が怒鳴ると、ジャワ人は馬を指さした。発音が悪かったので、HOUSEをHORSEと聞き間違えたらしい。苦笑いをしていると川沿いに大きな屋敷があり、イギリス総領事館だった。結局この屋敷を手に入れることになった。領事館の向かいには、「理学博士スカルノ」という表札が出ていたという。その後放送局・新聞社・通信社を摂取し、自由闊達に(つまりは日本統治の)宣伝活動を行ったという。この二年間を後に大宅は自分の生涯における最大のハイライト、メインイベントであると述べている。…大宅壮一とその時代にとってはそうなんだろうなあ、と改めて思う。私はあまり大宅壮一を大きく評価していない。
原爆開発に関して、イギリスも開発を進めていた。チャーチルはアメリカと共同開発することを主張し、カナダでウラニュームを入手可能とし、実験地もカナダでと言っている。もしカナダが渋ったら英国本土でも良いと腹をくくっていた。しかし、ルーズヴェルトが一分の迷いもなく実験場を(荒野や砂漠があるので)自国に設けることを主張したという。…イギリスの原爆開発については、あまり書かれていないので、こういう両国のやりとりがあったことを知った。
ガタルカナル島で認識されていた死期の日程表。立つことのできる人間は寿命30日、身体を起こして座れる人間は3週間。寝たきり起きられない人間は1週間。もの云わなくなった者は3日間。またたきしなくなった者は明日。…まさに太平洋戦争の悲惨さを象徴する話である。
当時の米海軍太平洋艦隊司令官ニミッツは山本五十六の行程を知っていてあえて撃墜死させる必要はないと考えていたが、駐在武官だったレイトンの「山本を葬る事の意義は大きなものです。天皇を別にすれば、山本ほど日本人の士気に影響を与える存在はないでしょう。」という進言を受け入れた。「ハルゼーやミッチャーは、真珠湾を自分たち自身への侮辱だと思っている。復讐の機会を与えてやろうじゃないか。」…
東條の独裁に反抗した中野正剛の死に様の話。「刀の切先が丸くて切れそうにない。(中略)そこで腹の方は軽く真似かたにして仕損じぬようにんやる。東向九拝、平静にして余裕綽々、自笑。俺は日本を見ながら成仏する。悲しんでくださるな。」そう記した遺書が残されていた。頚動脈を切断しての自害だった。…ちなみに、東條が東京裁判の被告として自害を試みて失敗する話は、2010年2月27日付ブログに詳しく書いている。
大東亜会議でのインドのボースのコトバ。このチャンドラ・ボースだけが熱狂的だった。「日本が、日本の軍隊がいかに素晴らしいことをしたか、どれだけの希望を作り出したかを。あなたたちは、日本人は教えてくれたのです。シンガポールで、香港で、ジャワで、サイゴンで、ビルまで、フィリピンで私たちは見ました。日本人が西洋人たちを、完膚なきまでに叩きのめした事を。そして私たちもまた、日本に学べば、力をつけ独立できる事を。白人の機嫌を伺い、目を伏せ、怯えてくさらないで済む事を。奴隷ではなく自分たちの人生の主人になれる事を教えてくれたのです。それがどれだけ素晴らしい事だったのか、それはあなたたちですら、長い時間をかけなければ理解できない事でしょう。」…日本の戦争への評価は様々だが、ボースの熱狂的な肯定も一つの見方であろうと思う。一方で東京裁判時のパール判事の判決とともに、インドの人々の日本を見る目は、他のアジア諸国とは少し違うと思うのだ。
アメリカの北京の陸軍武官スティルウェルは、蒋介石をピーナッツとあだ名をつけていた。カイロ会議の際、蒋介石はスターリンの反対をルーズヴェルトが押し切って四大国の指導者として招かれていた。当初、アメリカは中国をキリスト教化するとされていた蒋介石を熱狂的に支持していた。しかし、まったくの期待はずれに終わる。ルーズヴェルトのスティルウェルへのコトバ。「指導者、軍事司令官としての資質も乏しい。意思が弱く、気まぐれで、猜疑心が強すぎる。一国の指導者どころか、まともな国ならば連隊長ですらつとまらないだろう。」「それが何時になるかは解らないが、結局は共産主義者たちに彼は駆逐される事になるだろう。それは避けがたい運命のように、私には思われる。」…ルーズヴェルトの洞察は、するどい。私は、ルーズヴェルトは米大統領の中でも特に優秀な人であると思っている。
結局、昭和天皇の話はエントリーできなかった。続編をまたエントリーしたいと思う。
2015年2月24日火曜日
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