新潮文庫の佐藤優の新刊「外務省に告ぐ」を手に入れた。まだまだ途中なのだけれど、ちょっとエントリーしておきたい。示唆に富む文章が、もうすでにいくつかあったのだ。
ロシアはソ連と異なり、共産主義に基づく世界革命の野望はもっていない。ただし、ロシアは帝国主義国だ。まず、相手国の立場を考えずに自国の要求を、最大限に表明する。これに対して相手国がひるみ、国際社会も沈黙するならば、ロシアはそのまま権益を拡大する。相手国が激しく反発し、国際社会からも顰蹙を買い、結果としてロシアの国益が毀損されるような状況の時にだけ、妥協し、国際協調に転じる。
…外務官僚にはこのロシアが帝国主義国であるという本質が見えていない、という佐藤優の指摘の部分である。帝国主義国というものを見事に描いている文章だ、と私は思う。中国も、そしてアメリカも、英仏も、あてはまるなあと、率直に思ってしまう次第。日本も同じと言われたくないトコロだ。
北コーカサス地方のチェチェン共和国などのムスリムは、本来シャフィーイー派が多いのだが、19世紀、ロシア帝国の支配を潔しとせず、オスマントルコ帝国に亡命した。ロシアに住むチェチェン人は110万人だが、トルコに200万人、アラブ諸国に150万人のチェチェン人末裔が住むと言われる。中東に住む彼らは、ワッハーブ派が多い。ここで、佐藤優は正確さをきす為に平凡社の世界大百科事典をひいて、ワッハーブ派について引用している。その上で、ロシアの事情を改めて平たく説明している。
…ワッハーブ派といえば、サウジアラビアの国教であり、シャリーア(イスラム法)に厳密に従うという理解を私はしていたのだが、佐藤優の説明では、コーランとハディース(ムハンマドの伝承集)の権威しか認めず、聖人や墓の崇拝(シャフィーイ派は崇拝する。)を激しく忌避するグループだということになる。アルカイダもワッハーブ派である。彼らによると、地上には1人のカリフによって支配される単一のイスラム帝国が建設されるべきだということになる。
1994年、民族独立戦争の性格が強い第一次チェチェン戦争が始まった。この時、中東のチェチェン人(ワッハーブ派)が流入してきた。96年停戦、その後、民族主義者(シャフィーイ派)とイスラム帝国建設を目指す中東のワッハーブ派義勇兵との間で内乱が起き、中東やアフガンの原理主義過激派から支援を受けたワッハーブ派が主導権を握る。これを99年プーチンが叩き潰そうとした。これが第二次チェチェン戦争。今は、ロシアにとって、民族主義者のチェチェン人(シャフィーイ派)は味方だということになっている。ロシアにとって悪いイスラム教徒は、イスラム帝国建設をもくろむワッハーブ派であるわけだ。なるほど。佐藤優の説明はわかりやすい。
2014年5月13日火曜日
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