梅雨の京大稲森財団記念館 |
講演内容は、アフリカの情勢、現在の開発の状況の概説、そしてTICADⅠからの歴史を語っていただいた。私がJICAの教師派遣研修旅行の時知った、SMASE/理数科教育が、現在14カ国で行われ、さらに10カ国に拡大(私がブルキナでもSMASEの現場を見れたのもこの流れだ。)しているという。これはTICADⅡかららしい。興味深かったのは、TICADⅢ以来JICAが進めている国境での事務手続き(関税や審査)のスムーズ化の話だ。陸路で国境を越えた経験があればよくわかる。私は南アとジンバブエの国境通過の経験がある。実感としてよくわかった。ひどい場合2~3日かかるところもあるらしい。地味な話だが、経済的にも重要な国際協力だと私は思った次第。
講座の最後に、是非TICAD以前のJICAとアフリカの関わりを見て欲しいと、映画を少し見せていただいた。谷口千吉監督の「アサンテ・サーナ」(1974年)である。監督の妻である八千草薫が、JICAタンザニアの所長の妻役で出てくる。村落でうまくいかないままマラリアに倒れた坂田という主人公とバックパッカーが住む住居へ、見舞いに来るシーン。八千草薫は「協力隊の人はトンネルの真ん中を掘る人だと思うの。掘り始めと終わりは、注目されるけど、真ん中を掘ってる人は注目されないわ。だからこそ大事にしてあげたいの。」そういいなから粥を炊くのである。
さて、一気に質問会の話に飛ぶ。私は、黒川理事に質問したいことを3つ書いた。①TICADⅤで北アフリカやサヘル地域のイスラム遊牧民社会で日本がテロ対策を行うことへの懸念。(6月4日「TICADⅤが終わった日に。」参照)②ソマリア問題でも同様の懸念。ソマリランドの承認の方が有意義ではないか。(6月16日付ブログ「謎の独立国家ソマリランド#5」参照)③モザンビークのプロサバンナ事業への懸念。(6月9日付ブログ「モザンビークの護民官2」参照)である。こんな機会はめったにない。黒川氏は日本のアフリカ政策の中心におられる方である。このところ考えていたことを質問用紙に書き込んだのだった。
大変ありがたいことに、黒川氏は私の質問に具体的に答えていただいた。
①の治安対策について。具体的には2か月前に、セネガル・モザンビーク・チャド・ニジェール・ブルキナファソの5カ国から、それぞれ治安(国境警備や警察など)と開発(民生分野:教育や経済、環境などJICAと関連した部門)の専門家2名ずつと、モロッコ・リビア・アルジェリア・チュニジアの各大使館から人を集め、会議を開いたのだという。治安問題と開発(民生分野)は密接にリンクしているというのが、JICAの基本姿勢だという。遊牧民社会の事に関しては、アフリカ学会のネットワークを生かしてこれからも学んでいきたいとのこと。この会議の中心者は、JICAの課長で防衛大学出身の元自衛官。社会人採用枠で、セネガルやキンシャサ勤務の経験もある人物らしい。私の懸念はだいぶ払拭された。大いに期待したいところだ。
②ソマリアの問題について、現在、ケニアで研修した人材をソマリランドやブントランドにも投入しているらしい。ソマリアの実情を考えると「同感」だと言っていただけた。アフリカ学会からもソマリアの専門家の知恵を乞うとのこと。私自身は、同感だという言葉に嬉しさを隠せない。
③モザンビークの件では、数日前にも現地の小農の方の意見交換会を開いたとのこと。大農場のことばかりマスコミが注目しているが、この計画の中核にあるのは農業技術協力プロジェクトで、ナカラ回廊周辺で地道な努力を進めています、とのこと。…なるほど。大いに安心。小農の利益を護ってあげて欲しい。JICAこそ護民官であって欲しい。蛇足だが、レソトがTICADⅤ前の資源産出国15カ国に入っていることを講演後質問したのだが、黒川氏はちょっと考えられた後、「…私にもわかりません。」と答えていただいた。ほんと誠実な方だと確信した。
なぜなら、黒川氏が、講演の最後に我々に見せた映画「アサンテ・サーナ(スワヒリ語でありがとうの意味)」の中で出てきた八千草薫の「トンネルの真ん中を掘る人」というセリフに全てが凝縮されているように私は思う。
TICADⅤは、アフリカへの成長、そして投資という面で(まるでトンネル工事開始のイベントのように)華やかにスポットが当たったが、実は問題はこれから。JICAは、TICAD以前からの国際協力への想いをこめて、地道にトンネルの真ん中を掘って行く。
…そのメッセージ、確かに受け取らせていただきました。今日は、黒川氏にお会いできて、JICAへの信頼が再構築された素晴らしい1日でした。黒川氏と関係の皆さんに改めてお礼申し上げたいと思います。
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