2013年6月16日日曜日

「謎の独立国家ソマリランド」#5

「謎の独立国家ソマリランド」に書かれている巻頭の戦国時代風地図
TICADⅤで、日本政府がテロ対策支援を打ち出したことを私は批判的に見ている。(6月4日付ブログ参照)最大の問題は、日本とアフリカの遊牧民の発想の相違が甚だしいということである。言い過ぎかもしれないが、日本人の理解を超えたところに遊牧民の生業があり、下手に口出しすべきではない、まずは深い理解が必要だ。この事を私は「謎の国家ソマリランド」で学んだ。

この本の書評の最後に、著者が足を運んだソマリアの3地域、①氏族の話し合いで治安が安定したソマリランド、②海賊を送り出しているブントランド、③激しい内乱が続く首都モガディショのある南部ソマリアの政治システムを比較したい。

まず②の海賊国家・ブントランドでは氏族が政治を行っている。議会が氏族ごとに細かく割り振られている。だから、氏族益で政治が動く。海賊行為もまた氏族の収入になるので収まりそうにない。
①のソマリランドでは、長老院と呼ばれる貴族院のような議会と、政党数を3つに絞った(特定の氏族に偏らないよう、6つの選挙区の最低4つの選挙区で20%以上の得票率を獲得した政党だけが公認政党となる。要するに全氏族の支持が必要なのである。)衆議院のような議会がある。大統領もこの3つの政党から出た候補者による選挙である。事実上、衆議院と大統領が政治を行うが、長老院の賛意を得なければ法案は成立しない。(ただし予算は関与しない。氏族の長老に数字のことはわからないかららしい。)ソマリランドでは政治は政治家にまかせ、氏族はこれを監視し欠点を補う。氏族は武力を持たず、国家で唯一武力を持つ政府軍は政治に関与しない。まさに著者の表現を借りれば、先進国の指導など受けていない下から積み上げたハイパー民主主義国家だといってもいい。
それに対し、③の南部はどうかというと、氏族間の紛争の際のヘサーブ(精算:男性1人が死んだらラクダ100頭といったような遊牧民的な精算システム)が確立していないし、仲介する第三者の氏族もいない。政府がそれを代行しているので混乱の極みである。この政府もブントランドよりレベルの低い氏族の集合体でしかない。兵士も氏族からの出向である。要するに互いに信用していないのだ。これでは、混乱が収まらない。要するにエゴ丸出しの軍事力を持った氏族がバラバラに勢力争いをしているわけだ。…なるほど。

著者の高野秀行氏は、この本の最後で、こう提言している。「ソマリランドを認めて欲しい。独立国家というのが難しいのであれば「安全な場所」として認めて欲しい。そうなれば技術や資金の援助が来るし、投資やビジネス、資源開発が始まる。それはソマリア社会に対して明確なメッセージになる。「平和になり治安もよくなれば、カネも落ちる。」利害に敏感なソマリ人に対し、これほど効果的なメッセージはない。海賊を退治するのも、これが一番効くはずだ。ソマリランドは平和だがカネがないから南部の連中に馬鹿にされているが、平和でカネが儲かるようになれば、彼らも眼の色を変えるだろう。ソマリランドを支援することが、ソマリ社会全体を支援する最良の方法なのだ。

外務省のアフリカ関係の高官に是非とも読んでもらいたい本だ。この本に書かれていることを実際に確認したうえで、ソマリランドの承認を検討してもらいたい。TICADⅤのテロ対策費などよりはるかに安くつくし、有意義な対応が可能になるだろう。日本には、ソマリアとの歴史的問題(旧宗主国のイギリス・イタリア・フランスなどのEU、紛争介入して痛い目を見たアメリカなど)がない。だからこそ日本がやればいい、と私は思うのだ。

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