2013年5月7日火曜日

「謎の独立国家ソマリランド」#3

ソマリアの海賊出没マップ
ソマリアという国は、アフリカでは珍しい単一民族国家である。ソマリ語を共通言語としている。だが、氏族という集団が社会に強く根をはっているといってよい。その対立がソマリアの現状を理解する鍵であることは間違いない。第3回目の書評では、ソマリランドの東、まさにアフリカの角に位置し、海賊を多く輩出しているプントランドのことが書かれている部分についてまず書きたい。著者は中央政府が存在しないにもかかわらず存在する不思議な現地の航空会社で、ソマリランドから海賊マネーで潤うといわれるボサソへと飛んだのだった。
このボサソの街は乱れた感じもなく、銃を持った人間もいない街だった。しかし、まぎれもなく海賊行為は行われていた。海賊はもちろん、人質をとられた船会社や貿易会社も身代金を支払ったなどと公表しないのだが、この街では、身代金が会い払われると、一気に米ドルのレートが下がる。米ドルで支払われた日本円にして数千万という巨額のドルが、現地通貨シリングに両替されるからである。

ところで、ソマリアには「ディア(血の償い)」という氏族間の「ヘサーブ(清算)」という氏族間の伝統がある。たとえば、氏族間の争いで男が1人殺されてしまったら、調停者が入り、ラクダ100頭などという基準で遺族に支払われるのである。これで恨みっこなし、となる。まさにライディングを繰り返す遊牧民の知恵なのである。交渉の経費が差し引かれ、氏族によっては違うが、ディアの総額を200万円だとすると、その20%くらいが遺族のもとに入るらしい。ソマリ人の氏族とは企業のような組織である。支払いは相手の氏族が少しずつ集め支払うことになる。かつては40万円といえば、大金だったが、海賊が盛んになり莫大な金を易々と稼ぐのを見ると、血気盛んな若者にとっては、はした金に見えてしまう。「どうせ、氏族が精算してくれるのら、俺が何をやっても自分で責任をとらなくていいと思う奴が増えている。」とは、著者の案内人の言である。最近は、氏族の調停者となる長老も身代金と人質の交渉で忙しいらしい、とも。ソマリ人の基本原理は「カネ」である。伝統に従って長老が仲介や交渉に臨む時「タダ」というのはありえない。だから積極的に長老が海賊をやめさせる理由はないわけだ。もっと、言えば、氏族間の抗争より海賊の交渉の方がはるかに安全で金になる。外国人は身代金を払うだけで誰一人復讐に来ない。氏族全体にとってもおおいに儲かるわけだ。それをあえて止めようとする人間などいないわけだ。

海賊問題の本質は、こんなところにあるのだった。うーん。まさに我々の理解を超えた世界である。今日はここまで。

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