2011年10月3日月曜日

「ローマから日本が見える」を読む

このところ、イベントで疲れていたのか通勤電車内の読書時間が半減した。長らく書評も書いていないので、そろそろ書こうと思う。塩野七生さんの『ローマから日本が見える』という文庫本である。かなり古い本(2005年集英社より発刊・文庫本は2008年秋の発行である。)である。
この本、ローマ史を語る上で、極めて有為な本であるが、少なくともローマ史の基礎を学んでいないと、全く面白くないと思う。簡単なローマ史の復習をされてから読むのがいい。幸い、私は授業のためにウン年ぶりにローマ史をやりなおした直後なので、ラッキーだった。

ローマを理解するうえで重要なキーワードが出てくる。今回の授業では、この本から、3点挙げた。①ローマは、共和制を何よりも重要な国是としていること。②ローマの貴族と平民の関係。パトロンの語源となった貴族を意味するパトローネスが全てを物語っている。貴族に様々な相談や陳情をする平民は、クライアントの語源となったクリエンテスと呼ばれた。貴族と平民の対立が激化しなかったのは、貴族のノーブレス・オブリージュ(エリートとしての責務)の気概とともに義理人情という関係が構築されていたこと。③ラテン同盟など、ローマの支配の仕方、組織の仕方が上手かったこと。

これをきちっと示したうえで、ローマ史を見るとよくわかるのである。特にポエニ戦争から内乱の一世紀、カエサルの暗殺に至る部分は、これらのキーワードで解説が可能である。なぜポエニ戦争でハンニバルは少数の軍隊でアルプス越えをしてきたのか。③のラテン同盟の結びつきを軽く見ていたようである。裏切る同盟国が続出すると見ていたようだ。しかし、ローマは上手かった。16年の長きにわたった第二次ポエニ戦争でついにハンニバルは勝てなかった。
ポエニ戦争で、属州が誕生し、属州からの食糧供給が、ローマ市民である中小農民の没落をまねくが、なぜ彼らは遊民化したのか。②の貴族と平民の関係が重要である。しかも農地を貴族に手放し、奴隷経済の雄たる大農地経営へと発展する。パンとサーカスという遊民化も②の理解上にある。
カエサルの暗殺は、①の共和制への危機を感じた元老院のブルータスらの思慮の浅さだといえる。後継者のアウグストゥスは①への敬意を表しながら独裁制へとうまく移行する。

ローマ史は長い。組織のシステムをその時代に合わせてメンテナンスしながら生き延びていく。この辺に著者の熱い思いがあるようである。これを時折日本に当てはめて語る部分が、この本にはある。それがまた面白い。歴史を学ぶ面白さは、ここにあると私も思う。

この本の最後に、イタリアの普通高校で使われている歴史教科書にあるコトバが載せられている。「指導者に求められる資質は、次の五つである。知力。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意思。カエサルだけが、この全てをもっていた。」決断力、実行力、判断力などという日本のビジネス誌に出てくる資質は指導者にあって当然なので全く触れられていないそうだ。
この五つの資質から、塩野七生さんによるローマの指導者の通信簿が書かれている。全て100なのは、カエサルと、ギリシアのペリクレスのみ。(笑)面白いのは、グラックス兄弟が90・90・60・70・100と好評価なこと。二人とも暗殺や自殺に追い込まれるのだが、彼らのローマへの熱い思いがカエサルへと繋がるところが好評価の意味らしい。これに対するマリウス将軍は60・70・100・45・50と低い。ブルータスなど30・20・100・20・60、カリグラ帝は20・20・30・10・10とボロクソである。最後に、アウグスウトゥスは95・80・85・100・100と後世の評価とは違って案外低い。カエサルの引いた設計図を着実に実行した故のオリジナリティの無さ故だとか。なるほど。

なかなか面白い一冊であった。

追記:25人目の新しい読者、”けんいちい”さん登録ありがとうございます。ブログを拝見したところかなりの読書家の方とお見受けしました。忌憚のないコメントをよろしくお願いします。

0 件のコメント:

コメントを投稿