2023年9月2日土曜日

女王陛下のインテリジェンス

https://www.youtube.com/watch?v=InlEjkRuMx0&ab_channel=InternationalSpyMuseum
「世界史を作った海賊」(竹田いさみ/ちくま新書)では、エリザベス1世時の細かな史実が描かれていて、実に興味深い。昨日記したように、エリザベス1世とくれば、英国国教会と無敵艦隊撃破が思い浮かぶのだが、海賊の存在とともに、側近・フランシス・ウォールシンガムという秘書長官・枢密顧問官の役割が重きをなしている。彼は、在フランス大使であった時、ユグノーの虐殺を目の当たりにし、カトリックに対して恐怖と憎悪を持つことになったようだ。言わば、有名な英国情報部(秘密情報収集・工作活動のMI6が有名だが、暗号・暗号解読のMI1、極東から南北アメリカ、ロシア、中東などの担当のMI2、東欧・バルト三国担当のMI3、地図作成のMI4、防諜のMI5など)の元祖であるといえる。

ウォールシンガムは、国内に100人以上のスパイを配置するとともに、フランスの12箇所、ドイツに9箇所、スペインに4箇所、イタリアに4箇所、オランダに3箇所など少なくともヨーロッパに71人の腕利きのスパイを主要都市・港湾に常駐させていた。ケンブリッジの出身で、そのネットワークを使い、スペイン、フランスなどカトリック諸国の情報を集め、またプロテスタント(カルヴァン派の仏のユグノーや蘭のゴイセンなど)への支援も行っていたらしい。最初は予算などなかったが、無敵艦隊との決戦の年にはには、国家予算の15%を使用できるまでになっている。とはいえ、組織を私費で賄った時期もあり、それは女王とともに海賊への共同出資、さらには港湾の管理責任者としての利権もあり、女王との素早いコミュニケーションや各地のの素早い連絡を図るために、90頭近い馬を保有していたという。ドレイクやホーキンズら海賊も彼ら独自の情報網を持っており、彼に連携・協力した。

スペインとの戦争における最重要課題は、無敵艦隊(実はスペインだけでhなく、地中海沿岸のカトリック国からも派遣される多国籍軍)がいつ進撃してくるかであった。ウォールシンガム配下のスパイたちは、イタリアでは、ローマ法王の動きやジェノヴァの金融機関での軍資金の動きをつかみ、さらに無敵艦隊がオランダに配置されているネーデルランド総督パルマ公指揮の3万人の精鋭部隊を運んでイギリスへの上陸作戦を企んでいることもつかんでいた。

さらに、レバントの開戦(対オスマン帝国)で無敵艦隊が勝利していらい、楽観論に立ちっており、海軍提督のサンタ・クルス公が急死した後、フェリペ2世は、陸軍出身で名門貴族でのメディナ・シドニア公を司令官に据えたこともつかんでいた。10の地域からなる言葉も通じない多民族の大艦隊(130隻/兵士2万、船員8000、ガレー船を漕ぐ奴隷2000)を上手く指揮できるはずがない。実は対イギリスの戦争の主役は無敵艦隊ではなく、オランダにいる精鋭部隊であることがわかってくる。しかも上陸作戦が始まると、スコットランドのカトリック勢力が決起することもつかんでいた。イギリス側は、この精鋭部隊を上陸させないことが勝利のポイントだと見抜いていたわけだ。

…インテリジェンスの重要性は、今更言うまでもないが、このイギリスの情報戦の成功が世界史を動かしたことは間違いない。近世から近代へ。スペイン/ポルトガルから、オランダ/イギリスの時代へと、世界の覇権の分水嶺となったのである。

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