2022年8月2日火曜日

アーレント最後の言葉を読む

月曜日に市立図書館でさっそくアーレントを借りてきた。「全体主義の起源」は見つからなかったのだが、「アーレント 最後の言葉」という小森謙一郎氏の著作が見つかった。1975年12月4日、アーレントが心臓発作で亡くなった時、NYの部屋のタイプライターに残されていた遺稿をもとに、ミステリー小説風に話が進んでいくのだが、哲学書であることは間違いがない。(笑)しかし、アーレントの哲学の全体像がなんとなくわかったので、ありがたい本であった。ちなみに、画像の帯には「ユダヤの少女」とあるが、亡くなった時は69歳である。この帯のコピー、何か変である。

遺稿は、英語のタイトル(『精神の生活第三部』判断)とラテン語(ローマ帝政期の詩人ルカヌスの『内乱』の引用)とドイツ語(ゲーテのファウストからの引用)の銘が印字されていた。著者はアーレントの人生と思想を振り返りながらこの謎を追っていくわけだ。内容が難しい部分も多々あるのだが、まずは、私が興味を持った「全体主義の起源」について整理しておこうと思う。

第1部「反ユダヤ主義」フランス革命を期に誕生した国民国家は、文化的伝統を共有する共同体であり、「共通の敵」を見出し排除し自らの同質性・求心性を高めていく。それがユダヤ人となる。かつて国家財政を支えていたユダヤ人はその地位の低下とともに国民国家への不満が高まると一心に憎悪を集め「反ユダヤ主義」になり、民衆の支持を獲得する政治的な道具になった。

第2部「帝国主義」帝国主義時代の西欧人には、植民地の現地人を未開な野蛮人とみなし差別する「人種主義」が生まれた。一方、植民地獲得競争に乗り遅れたドイツやロシアは自民族の究極的な優位性を唱える「汎民族運動」を展開、中欧・東欧の民族的少数者たちの支配を正当化する「民族ナショナリズム」を生み出した。

第3部「全体主義」WWⅠで、国民国家は多く没落し、階級社会が崩壊し、かわりに何処にも所属しない根無し草のような大衆(=モッブ)が台頭する。インフレ・失業という状況で不安を持つ大衆に、自らがその一部として安住できる「世界観」を提示することで組織化したのがナチスである。

さて、通勤の中でずっとこの本を読んでいて、意外な考察をアーレントがしていたことに気づいた。アーレントもシオニズム運動に関わっており、その中心者であるブルーメンフェルトと懇意だったのだが、シオニズムを強く批判していることである。平たく記しておくと、ヨーロッパのユダヤ人は反ユダヤ主義のために、パレスチナに移住したが、その結果パレスチナ=アラブ人を二級市民として残るか、難民として追い出すかといったナチス同様の存在に堕してしまったという批判である。さらに、この本の中で、アーレントが書いた「イェルサレムのアイヒマン」において、ユダヤ人の中にアイヒマンに協力し、生き延びパレスチナに送られるユダヤ人の選別に関わった者にたいする鋭い批判行っている。これらは、今風に言うとユダヤ人社会の中で「大炎上」した。

https://movie.jorudan.co.jp/film/72051/
アーレントは、ハイデッガーの弟子であり、一方でヤスパースの弟子でもある。2度結婚し2度離婚している。彼女の人生を描いた映画もあるらしい。是非見てみたいと思った次第。

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