2022年6月22日水曜日

桜田門外の変 吉村昭 2

桜田門外の変は、井伊直弼が水戸藩士・薩摩藩士に暗殺された事件で、この背景には、日米修好通商条約をめぐる朝廷との駆け引きや、14代将軍の後継問題もからんで…との認識だった。しかし、「桜田門外の変」上巻を読み切ると、井伊の烈公へのたぐいまれなる悪感情があったように思う。政敵であるとか以前に、心底嫌いだったのだろう。

歴史は、人間が紐解いてきたものである以上、そういう人間の感情が大きく影響することもあると思われる。やはり、周波数が合う人間と合わない人間があるのだろう。まして、江戸の封建社会では門閥による閉鎖的な力関係も存在する。この時代にも意外に民主主義的な評議のシステムは存在しているのだが、井伊の行った安政の大獄は、さすがに常軌を逸している独裁的な激しさである。

江戸詰めの水戸藩の家老は切腹というお沙汰だったが、拷問の末に斬首されている。まあ、当時は人身の自由もないのだが、このような徳川御三家を恐れもしない姿勢が凄い。特に、朝廷から送られた直喩を幕府に返す返さないで、藩の取り潰しを強引に迫るあたり、鬼気迫るものがある。これでは、井伊も水戸藩士に殺されてもしかたがないだろうと思われるくらいだ。赤穂浪士の世界である。

一方で、凄い弾圧と警察国家的な状況下で、井伊暗殺計画はねられている。赤穂浪士よろしく、彦根藩邸内の様子を水戸藩は内偵して調べていた故に、討ち入りを諦めている。同志の江戸での隠れながらの滞在への配慮、合言葉、偽名、暗号的な書類などなかなか周到な準備と計画で進められている。さて、いよいよ運命の本番を迎えるところまで読みすすんだ。

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