2017年10月27日金曜日

「アラブの春」の正体を読むⅡ

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「アラブの春」の正体を読むの書評・続編である。
アラブの春はチュニジアで始まりエジプトに飛び火した。この主原因は「若者達の失業率の高さ」と「政府の腐敗」である。しかし、リビアは状況が全く違う。リビアは大学まで教育費が無料。医療費や電気代・水道代も無料、家や車のローンも国が半額補助するという、産油国故の福祉国家であった。長年続いたカダフィ政権は腐敗していたし、湾岸諸国に比べると物質的な満足度は低かった。カダフィは、インフラ整備より、外交や個人の影響力を高めるために石油の資金を使っていた。アフリカ諸国や反米の国に援助をしていた。なぜなら、資本主義的な金銭の使い方をムスリムであるカダフィは好まなかったし、経済制裁を受けていたリビアは資本主義諸国からの投資を受け入れていなかったからである。カダフィのアフリカでの人気は高かったのである。

欧米がカダフィの銀行口座を凍結した際、南アは凍結しなかった。その後欧米の圧力を受けて凍結はしたものの、カダフィを倒そうとしたリビアの国民評議会に、バーレーンやカタールのように、その口座の資金を渡さなかった。国民評議会が武装できたのは国外にあった国債やリビア政府の資金を得たからで、リビア内戦を演出したのは欧米等の影の支援があったからだと、著者は指摘している。しかもカダフィの資産はあくまでもリビア国債で、私有財産としての口座ではなく、口座を凍結するのが容易だったようだ。エジプトのムバラクの場合は個人口座だったので有罪になるまで凍結したり没収したり出来なかったことと比較すると、カダフィの「隠し財産」としてマスメディアが報道したことは極めて恣意的に見える。

なぜカダフィ政権を倒す必要があったのか。リビアの石油会社は国営で海外からの投資には制限があった。英米が参入できるように動いたという推測もある。さらにリビアの中国との接近を危惧していたという推測、さらに決定的な要因はリビアのアフリカでの影響力の増大である。カダフィは「AUによるアフリカ合衆国」構想を進めており、資源を武器に欧米やアジア、中東に対しても対等な関係を築こうとしていたし、「イスラム経済的な金本位制のディナール」という地域通貨に変えることを提案していた。

アメリカにとって基軸通貨がドルであることは超重要である。イラクのフセインが石油の売買をユーロで行うと発言した年にイラク戦争が起こされた。このことを著者は事実として覚えておく価値があると書いている。このリビア内戦も、前述の地域通貨・ディナールの提案が実行されそうになったタイミングで起こっているとのこと。

さらに、反カダフィの国民評議会は結成後、すぐに中央銀行を結成すると発表した。リビアはイラン、アフガン、イラクとともに中央銀行のない国であった。IMFの管理外にいたわけだ。外国に借金もなく、国債による投資が失敗しない限り、世界経済の影響をあまり受けない国だったのだが、これを国民評議会は覆した。故に資金を得て武器が流れ込み、国営企業が民営化され、続々と海外からの投資が参入してきたわけだ。彼らの背後に利権に絡む欧米がいるのは明白である。

2011年3月、国連の安保理がリビアへの空爆を容認する決議(棄権したのは中国・ロシア・インド・ドイツ・ブラジル)を行い、フランスを中心にしたNATO軍が空爆を開始、鉄道、高速道路、病院、大学と言った公共インフラを破壊したという。これらは内戦後に大きな投資効果が見込まれるものである。

…かなり引用と要約が長くなった。私が、指摘したいのは、この著者・重信メイ氏の調査は信用できるのではないかということだ。ならば、「リビアの春」という名の内戦劇は、欧米が中心となって仕組んだ経済戦争で、新たな投資のため(儲け話)だった、ということになる。恐ろしい推察ではあるが、十分な可能性がある。

今回の北朝鮮への「予防戦争」もまた同じような経済戦争の可能性があるのかもしれない。もしインフラ破壊がいかにもというカタチで行われた時、大きな疑義が生じるに違いない。どうやら、この世界にある構造的な暴力は、人間の命よりも投資による利益の方がはるかに重要であるらしい。

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