道祖神のDODOWorldNews2月号が届いた。今回の特集は、田中真知(男性である。)氏の「偶然のザイール河」というエッセイである。田中真知氏は、『アフリカ旅物語』(中南部編と北東部編)で知られる作家である。私も以前読んだ。現在もカイロに在住している。この『偶然のザイール河』、短いが、なかなかの名エッセイである。話はカイロのフランス文化センターで見た短編のアニメーションから始まる。
『結婚した若い二人が小さな丸木船に乗って旅立つ話だった。舟を漕ぐ二人の前に様々な困難がふりかかる。嵐、巨大な魚の襲撃、不和や不信、悪魔の誘惑、あげくの果てには互いに殺し合いそうになったりもする。やがて二人は年老いて、平和な日々がやってくる。二人は舟を漕続ける。そして、ある穏やかな夕暮れ、夫が静かに水に飛び込む。舟のまわりを気持ちよさそうに泳ぐ夫に、年老いた妻が舟上から微笑む。満ち足りた表情で夫は、長旅をともにしてきた妻に別れを告げ、水中に沈んでいく。』
この記憶が遠く響いたのかもしれない。と、田中真知夫婦は、コンゴ川(昔旅した記憶からあえてザイール河と旧名で彼は呼ぶ。)を、同じように丸太舟で旅するのだ。初日の上陸から蚊の大群に襲われたが、流域の村々では数々の親切を受ける。この旅で、彼が最も感じたのは、そういうのどかで牧歌的な暮らしが、偶然の死と隣り合わせだということであった。村を訪れると、大抵病人に引き合わされる。外国人なら薬を持っているだろうと思われていた。マラリアや風土病で、子どもたちは簡単に命を落とす。そうした「気まぐれなふるい分け」を宿命として受け入れる、それがここで生きるということだった。
そういう偶然の死は彼らのそばにもあった。妻がマラリアを発症した。持参の薬で助かったが、なくしたり、盗まれたりしたら確実に命にかかわった。降雨によって増水した河は洪水のような濁流となる。岸辺にいた村人に、雨だと言われて村に接岸して助かった。偶然の死のかたわらに、偶然の生が存在していた。
26日間の旅を終えて、田中真知氏は、体力と精神力を思い切り無駄使いした愚にもつかない旅だった、と思う。『もう二度とこんな旅はできないことはわかっていた。そう、もうこんな幸福な旅はもう二度とできないのだ。死ではなく、偶然の生をもたらしてくれた丸木舟に、僕たちは別れを告げた。それは自分たちの「若さ」と呼ばれるものとの明らかな決別でもあった。』
…そうなのだ。齢を重ねてこそ知る「若さ」というものがある。でもいいなあ。到底今の私たち夫婦には絶対出来ない旅だ。とはいえ、フランスのアニメーションのような旅を私たちもしているような気がする。いつか、私も妻に感謝しながら水中に沈むんだろうなあ。いやあ、いいエッセイでした。
2012年2月25日土曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
はじめまして。検索していたら偶然このページを発見しました。告知のようで申し訳ないのですが、今度、旅行系のイベントで田中真知さんを呼んで、これまた偶然ですがザイール川の話をしていただきます。もしよろしかったら、いらしてください。また、興味がありそうなお友だちにもご紹介ください。面白い話が聞けると思います。
返信削除旅行人文化祭-プラネット・アパート別館-
■期間:2012年4月7日(土)~4月22日(日)
火~金 11:00~19:00(月曜日休館)
土・日 11:00~16:00(17時からイベントのため)
■会場:神楽坂・光鱗亭ギャラリーhttp://www.kagurazaka-kourintei.com
〒162-0805 東京都新宿区矢来町41
tel & fax:03-6265-0630
■4月21日(土)「ザイール河秘話」田中真知 17:00~ [料]1200円(1ドリンク付き)開場16:40
■イベント申込:info@kagurazaka-kourintei.com
前原さん、コメントありがとうございます。『旅行人』の方だと思います。昔、ずっと月間の頃から読んでいました。是非大阪でもこういう企画をお願いします。(笑)
返信削除