2017年11月20日月曜日

帝国の復興と啓蒙の未来(7)

モーセが批判した偶像
https://world.wng.org/2014/
03/remembering_god
_is_god_and_we_are_not
「帝国の復興と啓蒙の未来」の備忘録の続きである。中田氏は、「カリフ制の再興」を主張するイスラーム法学者であるから、当然この「帝国の復興と啓蒙の未来」の結論もまた、領域国民国家への否定である。この本のタイトルの「帝国」とは、カリフ制のイスラーム帝国を意味する事は明白だし、「啓蒙」とは、一神教から脱したキリスト教世界の欧米・領域国民国家を意味する。

前回のエントリーの後、さらに正教的ロシア世界と儒教的中国世界に於けるイスラームと関連の歴史、さらにオスマン帝国でカリフ制の崩壊を説き、現在の世界状況について、イスラームの側からの意見を述べている。面白かったのは、中田氏が梅棹忠夫(「文明の生態史観」を書いた著名な文化人類学者)や田中明彦(前JICA理事長で「新しい中世」を書いた国際政治学者)を引用していることだ。スタンスはともあれ、一流の学者は、やはりわかり合う部分が多いのだろうと思う。

ところで、中田氏の領域国民国家批判は熾烈である。またまたトインビーの登場である。ナショナリズムこそ、ヒューマニティーに立脚する西欧の啓蒙プロジェクトが抱える最大の矛盾、病弊でありイスラームこそがその処方箋になることを半世紀以上前に見通していたのはトインビーであった。「歴史の研究」の中で文明の衰退の原因を分析し、自分でつくった偶像の奴隷となり、選択の自由を失うこととしている。キリスト教だけでなくすべての高等宗教の教えに反する領域国民国家を崇拝するナショナリズムという偶像崇拝が、世界中で実際の人々が奉じている宗教になっている。このナショナリズムという偶像崇拝の悪魔的邪教は有史以来の21の文明のうちの14~16の滅亡の原因であったばかりではなく、今日ではデモクラシーの名を繕う国家主義の形を取ることによって、歴史上かつてないほどに戦争を残酷なモノにしており、真に人類の文明にとって重大な脅威になっている。
トインビーは、このように述べていて、今は眠っている汎イスラーム主義の覚醒に期待していたようだ。

…反ナショナリズムの議論の引用としては、これ以上の引用はあるまいと思う。なんといっても大歴史学者・トインビーである。トインビーがナショナリズムを一神教に於ける最大のタブーの1つである「偶像」という語彙で表現しているのが凄い。

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