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EUの大半の国は自国への難民受け入れを「エコノミック・バーデン(経済負担)」の拡大に繋がるという懸念から反発、または極めて消極的な姿勢をとっている。しかし、本当にそうなのか?小俣氏が所属する難民研究センターが今年4月に米テキサス州に存在する難民の経済活動について調査したところ、地域経済に重要な貢献を果たしていることが確認されたという。米国には毎年7万人の難民が移住し、テキサス州は5000人を受け入れている。同州では複数のエチオピア難民が、エチオピア料理店を立ち上げ、食材を現地業者から購入し、現地米国人を雇用している。またネパール、ミャンマーからの農民が携帯電話工場に勤務し貴重な労働力となっている。当然、難民たちは家賃を払い、税金も他の住民と同様に納めている。州の難民受け入れ関係者も、この経済貢献についてえ十分に認識しており、同州が受け入れに寛容な理由となっている。
オハイオ州のクリーブランド市は同市在住の4500人の難民の経済効果を試算。興味深いのは、彼らが独自にビジネスを立ち上げる傾向が強く、現地人から雇用を取り上げているわけではないということである。難民の家計と難民が起業した企業の支出の合計は、難民支援のための公的支出を大幅に上回っている。また難民がもたらす直接・間接の雇用創造は12年時点で500人だという。
オーストラリアのビクトリア州の畜産。農業を主産業とするニル市では、10年~14年に200人のミャンマー難民が受け入れられ、5年間で約50億円の経済効果を挙げていると算出された。ニル市は人口減のため労働力不足に悩まされていたが、畜産・農業のスキルをもつ難民の多くが同産業に従事して、大きく成功した例である。
ただ、米国・オーストラリアの研究報告は、難民が経済貢献を果たす段階に至るまでは一定の時間が必要であることを示唆している。ニル市の時系列的調査では、10年には$90万だったが、14年には$1200に達している。クリーブランド市でも同様で、移行期間中は受け入れ側のコストが集中するが、その期間を過ぎると難民は社会に適応し、独立した経済活動を営み、地域経済に組み込まれていくという。EU諸国が懸念する「難民=受け入れ国の経済負担増加」という見方は、中長期的に見れば、根拠が希薄だといえるのである。
日本は「難民受け入れを拒絶している国」として世界的に知られている。しかし、これらの研究報告は日本でも適用可能なはずだ。構造的な労働力不足の問題を抱える日本は、400万人と言われるシリア難民を受け入れることが強く望まれる。ただ、日本は大規模な難民受け入れ経験が乏しい。受け入れシステムを整備、強化することが必須で、とりわけ難民が経済自立できるような支援体制の確立が欠かせない。
この点、テキサス州の三位一体の支援制度が参考になる。1つ目は政府・自治体・およびNGOによる援助。移住当初の住宅の提供、語学研修、仕事が見つかるまでの経済手当の提供など異国での生活を立ち上げる支援も含まれる。2つ目は、地域の企業やコミュニティーによる支援。テキサス州では、州政府と企業が密接な協力体制を築いている。企業が求める人材とのマッチングだ。3つ目は難民自身の自助努力である。
難民受け入れは本来、人道支援である。経済的利益とは切り離して議論すべきだ。ただ「バーデン・シェアリング(負担の分担)」といわれるように、難民の経済資質を重視し、経済活力の源泉となるという視点が必要である。
…長くなったけれど、極めて示唆に富む内容だと私は思う。
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