既読の中から面白かった内容をエントリーしたい。本のタイトルは「異端の人間学」である。ロシア人がそもそも異端だというわけではなさそうだが、「スタロヴェール」を理解しないとロシアの本質はつかまえられないという章があって、五木がまだソ連時代にイルクーツク郊外の日本人墓地を訪れた際に周辺でイコンを売っていた黒い服の老婆に出会う話から始まる。社会主義下で物乞いのようにお皿を置いており、通訳に尋ねると「スタロヴェール」だと言う。ロシア正教の異端で、「古儀式派」あるいは「分離派」と呼ばれる。17世紀に、ロシア正教会は伝統的なロシア独自の儀式をやめて、ギリシア正教のグローバルな儀式を取り入れる宗教改革を行った。
これに反発したのが「スタロヴェール」で、十字をきる際に二本指だったのを三本指に変更したが、これを拒否、迫害や拷問を繰り返し受ける。指導者だった修道士・アバクームは火あぶりになっている。国にも属さず、教会も持たない国民としてロシア中を放浪して歩く放浪教徒と呼ばれた存在である。ロシアでは、こういったさまよう者たちへの憧れ、称賛(五木によればイージー・ライダーの時代のピッピーのような)の思いがあり、彼らを保護する村もたくさんあったようだ。五木によれば、そんな村の一つにレーニンが匿われ、それがプーチンの祖父だったという事実があるらしい。
実は初期ロシアの資本主義を担ったのは「スタロヴェール」で、プロテスタントの職業倫理観と共通の側面があるとのこと。また聖書重視(ロシア正教ではありえない)だった点もプロテスタントに近い。ロシアには「スタロヴェール」の資本家が大勢いて、洋菓子のモロゾフ家もそうであるらしい。レーニンに資金を供給していたという。(彼らにとって迫害してきたロマノフ朝は敵である。)彼らは17世紀から共同生活を行い、労働で生きてきた。このネットワークがソヴェート(会議)と呼ばれていたというのは驚きだった。…つづく。
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