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ふと、歌詞を噛みしめてみると、見事に情景が浮かんでくる。さすが、昭和を代表する作詞家・阿久悠の詩である。
壁際に寝返りうって 背中で聞いている
やっぱりお前は出ていくんだな
悪いことばかりじゃないと 思いでかき集め
鞄に詰め込む気配がしている
行ったきりなら幸せになるがいい
戻る気になりゃいつでもおいでよ
せめて少しはカッコつけさせてくれ
寝たふりしてる間に出て行ってくれ
バーボンのボトルを抱いて 夜更けの窓に立つ
お前がふらふら行くのが見える
さよならというのもなぜか しらけた感じだし
あばよとさらりと送ってみるか
別にふざけて困らせたわけじゃない
愛というのに照れてただけだよ
夜というのに派手なレコードかけて
朝までふざけようワンマンショーで
背中で、女が去ろうとしている気配を感じている。しかも女の想いの中に多少の未練を感じ取っている。「悪いことばかりじゃないと 思いでかき集め 鞄に詰め込む気配がしている」素晴らしい歌詞ではないか。
「バーボンのボトルを抱いて 夜更けの窓に立つ お前がふらふら行くのが見える」まさに情景が浮かぶ歌詞だ。こういう時、男が飲む酒は、やはりバーボンがふさわしい。バーボンと言うちょっと非日常的で語呂もいい酒。”バーボンのボトルを抱いて”=5字7字。ふらふらと女が去っていく。かなりの心労がそうさせているのだ。これまでの恋の強度がわかる。いいよなあ。街灯と女の影がゆれているのが見えるではないか。
”しらけた”というのは、当時の流行語の1つ。派手なレコード、ワンマンショー。昭和を感じる語彙だが、この2つの7字には、この歌のキーワードとして見事に映えている。
この歌で描かれている男は、「ふざけること」で自分の大事な何かを隠し通そうとしているようだ。2度出てくるこの「ふざける」という動詞。これもこの歌のキーワードである。彼が隠そうとしているのは何なのだろう。意外に純粋な男のロマンなのかもしれない。
1977年。昭和52年。私は大学2回生。この頃にはまだ未来に夢があり、シラケ世代と言われながらも、若者が純粋に自分の生き方を探していた時代だ。加藤諦三の「俺には俺の生き方がある」などという、今読むとちょっと恥ずかしい本がまだまだ売れていたし、革命という言葉に皆、憧れを抱いていた時代であった。
恐るべし、昭和の歌謡曲。中でもこの歌詞は最高級品だと私は今日改めて思ったのだった。
https://www.youtube.com/watch?v=aFAdojrMoao
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