2026年5月19日火曜日

書評 吉村昭 『海の祭礼』Ⅰ

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礼文島から利尻島を望む
通勤時に吉村昭 の『海の祭礼』を読んでいる。あと少しで終わり、というところである。吉村昭の歴史小説は、資料を元に念密に書かれている。この小説の最初の舞台は、利尻島である。私は、利尻島に渡ってはいないが、礼文島から、あるいはサロベツ原野から利尻富士を眺めてはその美しさに感動をしている。北海道の観光名所を挙げるとすれば、まずは道北のこの地域を挙げる。(道東もいいのだが…。)

その利尻島に、マクドナルドという青年が漂着するのだが、それを発見し助けたのがアイヌの人々である。読み進めていくと、アイヌの人々が、和人に使われている様子がありありと描かれている。調べてみると、松前藩がアイヌの人々を武力ではなく、交易の独占と商場知行制(米の取れない松前藩では、藩主が家臣に特定の地域におけるアイヌ人との公益独占権を知行=給与として与えた制度)で、経済的に従属させ、不当な搾取や労働を強いる体制を確立していった。この後、家臣が直接公益をせず、商人に経営を任せる場所請負制に移行した。

…アイヌ人への和人の支配については、これまであまり触れる機会がなかったのだが、やはり現在から見ると搾取・差別・支配という問題をはらんでいる。世界史的に見ても時代背景から十分ありえることなのだが、改めて感じるところがあった。

さて、この漂流者保護は、利尻島の場所請負をしている商人から宗谷の松前藩支所へお伺いを立て、さらに松前の本拠地、幕府へと連絡が行く。その報告が利尻島の番人以来、極めて詳細で、この頃すでに、ビューロクラシー(官僚制)が見事に確立していたことに驚かされる。判断は上部にまかせ、下部は念密な報告を行うのである。

…日本の封建主義、特に武士社会の官僚主義能力は、幕末維新を経て、軍事より、(行政や企業の)中間管理職化を促進するということがよくわかる。意外に日本は専制的社会ではなく、上部では特に責任ある役職(様々な奉行など)の持ち回り制や、幕府・あるいは藩内の協議による決定など、民主主義的な要素もあるわけで、世界史的に見ても先進的な資本主義的な発達もあって、実に興味深いところである。

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