「二人の娘に、アンナとサラというヘブライ語起源の名前をつけたから、ときどきクリスチャンですかと聞かれるが、いたって不信心な生活を送っている。若い頃にドイツ文学を専攻していたころの酔狂でつけた名前で、ローマ字で書いてもドイツ語になる名前を考えたら、たまたまヘブライ語起源の名前になっただけだ。▶西欧文学を専攻したくらいなら旧約聖書は読んでいて当然だろうが、実はちゃんと読んだことがなかった。今回の企画で時間の許す限り初めて繙(ひもと)いた。読んでみて、改めてこの浩瀚(こうかん:分量が多いこと)な書物が西欧文学に与えた影響の大きさを思い知った。▶創世記24章、アブラハムが息子イサクの嫁探しに家の者を派遣する件、泉に水を汲みに来る娘の素行で嫁の品定めをするところを読んで、卒論で扱ったゲーテの『ヘルマンとドロテーア』の一節に近似していることに気づき、思わず20年前に読んだ原書をひっぱり出してきて、我を忘れて読みふけった。▶若いころは、こんなにコンサバ(コンサバティヴ:伝統的な/保守的な)な作品を卒論に扱ったことを恥じたものだが、中年になった今、もはや羞恥もなく、しばし至福の体験であった。」
…私は、当然この『ヘルマンとドロテーア』を読んだこともないし、初めて知った。ゲーテといえば、『ファウスト』や『若きウェルテルの悩み』とくるのだが、この『ヘルマンとドロテーア』は、ドイツ本国では最も有名かつ読まれた作品らしい。(たしかにコンサバである。)少し調べてみた。題材は、新教徒故にフランスを追われた女性・ドロテーアとドイツの純朴な青年ヘルマンの話なのだが、フランス革命時に置き換えられている恋愛叙事詩であるらしい。
…有名な映画・「エデンの東」がカインとアベルの物語をモチーフしていることを先日(本年9月4日)エントリーしたが、AIで旧約聖書の内容が影響を与えた文学や映画は何か?と検索してみると「失楽園」や「カラマーゾフの兄弟」などが挙がってきた。おそらく、もっともっとあると思われる。
…ところで、ゲーテは、ドイツでは”グェーテ”と発音される。南ア・ジンバブエ行の帰路、フランクフルトで時間あったので短時間の観光ツアーに参加した際、たくさんの人が集まっているところを指さして、ガイド兼運転手に”グェーテの生家だよ”と言われた(もちろん英語)のだが、後でゲーテのことだと知ったことを思い出したのであった。
…とにかく、この(豊)氏の編集後記、実に俊逸だと思うのだが…。
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