2025年4月17日木曜日

経済で読み解く現代史3

「経済で読み解く世界史」(宇山卓栄著/扶桑社新書)の書評第20回目。今回は、WWⅠ後のドイツ経済。ハイパーインフレの真実と財政の魔術師・シャハトについてである。 

WWⅠは総力戦で莫大な戦費が投入された。それ故敗戦国ドイツに天文学的な賠償金が課せられ、フランスとベルギーがドイツの心臓部ルール工業地帯占領という無茶をやったので、頭にきたドイツ政府は、賠償金のために膨大な紙幣増刷に走り、ハイパーインフレとなった、と今まで授業で教えてきた。これは一般的な解説である。しかし、その内実は違うと本書は教えている。

なにより、賠償金の支払いは、(金本位制下故に)金での支払い、あるいはそれに見合うドルやポンドの支払い限定であったからである。…目からウロコである。

このライヒスバンクの紙幣増刷は人為的なものであったらしい。中央銀行でありながら、市中銀行と同じく、融資を積極的に行っており、インフレが激しく進行することを政府筋から掴んでいた一部の担保力のある借り手が、ライヒスバンクや市中銀行から融資を受け、土地・設備なの資産を買い入れ、一定の時期が過ぎれば貸付金は、実質価値が下がり、貸付返済は軽くなり、結果的に資産を安く買い入れることができる。インフレがさらに進めば、購入した資産を担保にさらに大きな融資を受け、さらに資産買いに当てるという行動を際限なく繰り返し、保有資産を増大させることが可能になる。このようなオペレーションをとることを前提にした人為的な誘導であったと著者は考えており、誰が、あるいはどんな組織が得をしたのかを特定することは困難だが、担保力のある大資本、あるいは政府関係筋ではないか。結局中産階級を中心とした現金資産保有者は大損したわけである。

さて、1923年シャハト(本日の画像は彼を描いたコミック表紙)が新たな中央銀行総裁となる。彼が主導したレンテンマルクはドイツの土地不動産という実体により保証されたもので、その資産価値を超える通貨の発行(33億レンテンマルク)、国債引受高(12億レンテンマルク)を認めないとした。それまでのマルクとの交換レートは1:1兆で、単なるデノミネーションではなかった。これにより信用を生みインフレは収束した。

1924年にアメリカのドーズによりドイツ経済再建のためのドル資本の注入が行われ、ドルとレンテンマルクをペッグさせ安定させるため、臨時的に発行されたレンテンマルクは恒久的なライヒスマルクに転換、ドイツの通貨が保証された。実際ドイツ経済は回復したのだが、1929年の世界大恐慌で、アメリカ資本が撤退、ドイツはデフォルトに陥る。

ナチが台頭し、ケインズ的な有効需要政策(アウトバーン)や再軍備などで劇的に失業率を下げ、ナチ直属の労働組合に賃金の分配を監視させ公共事業の恩恵を労働者に行き渡らせもした。また食糧価格安定法で物価を統制した。

これらの公共事業の巨大な財源を赤字国債にたよるとインフレ化が必定。そこでシャハトが経済相とライヒスバンク総裁として起用される。シャハトは、ダミー会社のメフォ(MEFO:有限会社冶金研究協会)という政府外郭団体の金属調査会社を設立し、メフォに兵器発注を行わせ、メフォはその支払を手形で行った。この手形をライヒスバンクが保証、手形の償還期限は3ヶ月だが、最大5年まで延長可能として、膨大な手形を発行、事実上政府の資金借り入れの窓口とした。政府はメフォ手形により、国債発行、それを引き受けるための通貨増発をしなくて済み、インフレを回避したのである。シャハトは、このメフォの実態を機密扱いにして、財政に対する社会不安を紛らわし、インフレなしの財政出動を可能にしたのだった。財政の魔術師と言われた所以である。

ところが、メフォ手形によって得た巨額の借金はいずれ返済しなければならない。シャハトは、際限なく発行される手形に制限を加えるように集中王したが、ナチの軍拡路線は止まらず、赤字国債の発行も大規模に行いだした。ナチ支援企業がこの赤字国債を無制限に引き受け、それらを偽計的特別会計に国購入費を計上して欠損を隠していた。1938年、いよいよメフォ手形の5年の返済期限になった時、ナチはその対策に追われ、ライヒスバンクは27億ライヒスマルクの紙幣増刷を行う。シャハトはこれ以上の赤字国債発行は危険だと抗議文を出したが、解任された。

1939年以降、財政に窮したナチは、侵略によって他国の財産強奪して借金返済に当てる以外に方法がなくなったのである。

…私はこの辺の歴史には詳しいと自負していたが、またもや自己の見識の浅さに打ちひしがれてしまった。本書の価値は極めて高い。

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